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『農業と経済』2018年12月号

しばらく前に、日本のエンゲル係数が高くなっていることが話題になりました。これに対する安倍首相の反応の奇妙さもあって注目されましたが、今度はお金がなくて食べ物が買えなかった経験がある、という家庭が35%もあるという報道がありました。私も学生時代に手持ち50円しかないことはありましたので、その数字に何を見るかは難しいですが、こういうことが話題になってしまう世の中になっているということはいえるでしょう。子ども食堂の取り組みもしばしば取り上げられます。
 食は生命を支える一番の基本です。しかし、その食を削ってでも別のものにお金を使う、一方ではそういう状況も広がっているように思います。エンゲル係数の上昇と食費節約の間で何が起こっているのでしょうか。お金だけではなく、食にかける手間や時間、さらには空腹感や満足感という感覚的なものまですり減ってしまっているのではないかと思います。
 長寿世界一ともいわれる日本の食生活の先行きが心配になりますが、近年意外な要因が健康寿命に関連しているという報告が出ています。それは「読書」です。数年前にアメリカの研究者が統計的にこの関係を示しましたが、最近ではAIの解析でも同じような連関が示されているようです。出版社の人間としては心強く思いますが、おそらくは「読書」そのものというよりも、そこにある知恵や知識、あるいは読書をするような生活習慣や環境ということが絡んでいるのでしょう。
 もはやコメを日本の「主食」と呼ぶことが難しくなりつつあります。この変化は単に食の世界にとどまらないことは言うまでもなく、文化や社会の大きな変化と重なって動いています。グローバル化は、日本だけでなく多くの発展途上国の文化を変え、食を変えています。読書もそうですが、食もその人の生活習慣や人間関係、そして生き方を表す一つの指標ではないでしょうか。文化の香りも味わいながらとれたてのコメを食す、そんな秋を過ごしたいものです。(R)

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